今回の講義でご紹介するお酒はこちらです。
■ブリュワリー:稲とアガベ醸造所
■所在地:秋田県男鹿市
■原料米:秋田県産完全無農薬ササニシキ
■副原料:アガベシロップ
■精米歩合:92%
■酵母:非公開
■アルコール度数:14%
■備考:
■参考価格:3,300円/720ml
本当は講義ではもう一本未発売の特別なお酒をテイスティングしたのですが、そちらは内緒のお酒ということで、割愛させていただきます。
稲とアガベ醸造所の看板商品「稲とアガベ」です。
米・米こうじにテキーラの原料であるブルーアガベのシロップを使用することで、清酒の定義から外しています。
ただ、入れているのもほんの少量ですので、味わいのスタイルはほぼ清酒の技術で造られています。
※さすがに細かすぎる裏話ですので、ここは読み飛ばして頂いてかまいませんが、このコンセプトで発売する際、これは本当に清酒の定義に当てはまらないのか、国税庁はかなり慎重だったそうです。
というのも、実は清酒の原料として「糖類」というのが認められています。
「シロップ」は糖類ではないのか?という疑問があるのです。
この点、「糖類」はさらに細かく規定があり、「ブドウ糖その他財務省令で定める糖類」とあり、財務省令を見てみると「でん粉質物を分解したもの」とあります。
最終的にはシロップにミネラルを含むため、清酒の定義外であるという決着になったそうですが、私個人的にはアガベシロップはでん粉ではなく「イヌリン」の分解による糖なので、ミネラル以前にここには当てはまらないのではという気がしています。
稲とアガベで使用する米は完全無農薬栽培で、精米をほとんどしない(高精米歩合)でも酒にしたときに綺麗な味わいになりやすいという特徴があるそうです。
この素晴らしい米を出来るだけ精米せず、そのまま使いたい。
しかしながら、高精米歩合ではどうしても米の外側の脂質が多く残り、これが糠臭に繋がる欠点がありました。
これを防ぐ方法として、リパーゼという酵素剤を使用して脂質を溶かしだしてしまうという技術も開発されていますが、岡住さんは酵素剤などの力を借りずに酒造りをしたいという想いがあります。
そこで岡住さんが辿り着いたのが米をお湯で洗う手法です。米は冷水で洗うのが酒造業界の常識ではありますが、これによって米の脂質を洗い流し、格段に綺麗な味わいになったといいます。
また、あまり磨かない高精米歩合のお米は溶けにくいという課題もあります。
そのため、溶かす力の強い「焼酎用黄麹」という、通常用いられることのない古い麹菌を使用し、それでいて重い味わいにしないために製麹時間(麹を造る時間)を短く抑えます。
精米歩合92%、焼酎用黄麹を使用した酒と聞けば、重くどっしりとした味わいを想像するのが通常かもしれませんが、岡住さんの造る「稲とアガベ」はあくまでバランスが良く、軽快さを持ち合せています。
「米を磨かず技術を磨く」という言葉を抱え、通常の蔵が米を精米することで解決する課題を、様々な革新的方法で解決し、ぐんぐんそのクオリティを高めています。
「年を重ねる毎に」どころか「ロットを重ねる毎に」大きく成長する今注目のブリュワリーです。
是非味わってみて頂きたいと思います。