まず、「米」と「米こうじ」はどちらも必須だということが分かります。
⇒したがって、全部「米こうじ」を使用して、「米」を使わなかった場合には清酒の定義から外れます。
米と米こうじ以外にも使える材料は決まっています。上記に「清酒かす」とある他、「その他政令で定める物品」として、アルコールや糖類、酸味料等が指定されています。
⇒したがって指定されている原料以外のものを副原料として使用すると清酒の定義から外れます。
Point2 「こしたもの」と決まっている
「こす」というのは「搾る」「上槽する」などとも呼ばれる工程ですが、これは清酒に必須の工程で、漉してはじめて「清酒」になります。
⇒こさずに商品化するものは「濁酒(どぶろく)」と呼ばれ、これも「その他の醸造酒」の区分になります。
ちなみに、昔は「日本酒」と「清酒」同じものを指していましたが、現在は清酒の中で日本産の米を使用して、日本で醸造したもののみ「日本酒」と名乗る事が出来ます。
クラフトサケブリュワリー協会の発足
Point2の濁酒は歴史が古いので分かる方も多いのですが、Point1の副原料を使用したお酒はなかなか説明がややこしいところがあります。
リキュールなのか?と問われることも多いのですが、もちろんリキュールとは違います。
リキュールは酒類に果実やハーブを漬ける等して造る「混成酒」と呼ばれるジャンルになるのですが、「クラフトサケ」の場合は副原料を米・米こうじと一緒に投入し、一緒に発酵させているもので、これはあくまで「醸造酒」と呼ばれる日本酒やワイン、ビールの仲間なのです。
発酵というと原料に含まれている成分を微生物が分解して新たな風味をつくり出すものですので、例えば米だけを発酵させたとしても、かなり複雑な化学反応が起こります。
原料が米だけでも複雑なのに、更に別の原料を一緒に入れれば、どんな化学反応が起こるかは未知数です。
そこに難しさがあり、ワクワクがあると特別講師の岡住さんは語ります。
ただ、これを説明するのはとてもややこしい。
『日本酒のようで日本酒の定義からは外れていて、リキュールとも違うんです…法律上は「その他の醸造酒」というものになって…』という、この記事でここまで説明してきたようなことを言わないといけない。
そういう難しいことを言わずに一言で表現出来るように、このジャンルに名前を付けたい、ということで「クラフトサケ」と呼び、協会をつくることにしたのだそうです。
※この「クラフトサケ」という言葉は「クラフトビール」から借りてきたものかと思います。
日本のビール業界では、長いこと大手4社が市場を独占する状態で、新規免許のハードルは非常に高いものでしたが、規制緩和によって小規模の醸造所が作れるようになり、そうした小規模醸造所のビールが「クラフトビール」として、ブームになったという経緯があります。
協会では、同じように「クラフトサケ」の醸造所を造りたいがノウハウがない、という方にも情報提供するなどして力になれるようにしたいとのことでした。
(基本新規参入出来ない業界だったので、ノウハウがないのが当たり前なんですよね)
クラフトサケブリュワリー紹介
現在クラフトサケブリュワリー協会の会員醸造所は7ブリュワリーあります。
今回は各ブリュワリーのご紹介をさせていただきます。次回の記事ではいよいよこれらのブリュワリーがつくったクラフトサケをご紹介していきます!
WAKAZE フランス・パリ フレンヌ市
ボストンコンサルティンググループ出身の稲川社長(写真左)と、新政酒造・桝田酒造店・阿部酒造等で修業された今井杜氏(写真右)が中心となっています。
こちらが「クラフトサケ」が出来るきっかけとなったブリュワリーです。
新たな表現を求めて果実やハーブを入れる「ボタニカルSAKE」のコンセプトで、商品を発売しようとしたところ、それは「その他の醸造酒」にあたると国税庁から回答があったそうです。
WAKAZEさんは清酒蔵への委託醸造もしていましたので、清酒免許制度の穴を狙ったというよりは、新たな表現を模索する中での発見のような形だったのですね。
稲とアガベ 秋田県男鹿市
今回特別講師をお願いした岡住さんが建てたブリュワリー。岡住さん(写真右)はクラフトサケブリュワリー協会の会長でもあります。
お酒については後編でお伝えしていきますが、特に麹の技術については業界内での評価もとても高いです。
酒造りだけでなく、男鹿という街を活性化させるべく「男鹿シティ構想」を進めている、とてもバイタリティ溢れる方です。
LAGOON BREWERY 新潟県北区
今代司酒造の社長であった田中洋介さん(写真右)が設立したブリュワリーです。
元々酒蔵の社長だったところからクラフトサケのブリュワリーを建てるケースは珍しいと思います。
清酒には出来なかった副原料を使った表現、全麹の製法など、様々な挑戦をしています。
特に後編で紹介するクラフトサケには業界も衝撃を受けました。
haccoba 福島県南相馬市
IT企業から参入した佐藤太亮さん(写真左)が、阿部酒造さんで修業した後に立ち上げました。
ホップを使用した爽やかかつ華やかなクラフトサケがとても得意な印象です。
講義では修業元の阿部酒造さんとタイアップしたクラフトサケをご紹介しています。
創業当初の仲間である立川さんは、現在「ぷくぷく醸造」という醸造所を持たない新銘柄を立ち上げています。
木花之醸造所 東京台東区浅草
「稲とアガベ」の岡住さん(前出)が初代醸造長を務め、今は二代目の日向さん(写真右)が醸造長、もうすぐ三代目醸造長が誕生します。
短い年数で新たな醸造長に譲ることで、多くの方にクラフトサケの醸造経験を積み、独立をサポートする狙いも持っているブリュワリーです。
基本的には醸造長の方針を尊重するため、醸造長が変わるとお酒の方向性も変わります。
現醸造長の日向さんは原料も製法も非常にストイックで、副原料は最低限にし、どぶろくという製法を掘下げていくタイプとのことです。
ハッピー太郎醸造所 滋賀県長浜市
「ハッピー太郎」さんこと池島幸太郎さんのブリュワリーで、商業文化施設「湖のスコーレ」の中に入っています。(幸太郎の幸がハッピーなのですね!)
もともと「糀屋」であるという感覚が強く、麹を使用した味噌や鮒寿司など、幅広い発酵食品の経験をお持ちです。
もちろん清酒蔵でも日本海酒造・冨田酒造・岡村本家と3つの蔵で12年の修業をされています。
しっかりとした「完熟」の麹を造り、自然栽培のお米をしっかりと溶かし切るどぶろくを得意としています。
LIBROM 福岡県福岡市
中学校の同級生である柳生さん(写真左)と穴見さん(写真右)がそれぞれ別々の蔵で修業をしたのちに合流し建てたブリュワリー。
なんと二人とも下戸でアルコールが苦手なんだとか。そんな二人でも楽しめる、低アルコールのお酒が中心になっています。
福岡県産の果実やハーブを丁寧に原料処理し、その旬の風味を綺麗に活かした華やかなクラフトサケを造っています。
ライター紹介
並里 直哉
日本酒講師・清酒専門評価者
6年間酒類総合卸会社に勤務したのち独立し、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」での日本酒講座、酒販店や飲食店の社員研修、テレビやラジオ、雑誌等のメディア出演などを通じて日本酒の魅力を伝えている。