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TASTING COMMENT

PROFILE

PHILIPPE JAMESSE フィリップス・ジャムス

シニア・ソムリエ

フランスのトップレベルソムリエ。
1993年 シャンパーニュにて、ソムリエデビュー。その後ドメーヌ レ クレイエールで18年を含め、ヘッドソムリエとして28年のキャリアを持つ。
2019年「DNA CHAMPAGNE & WINE」を設立し、シャンパーニュのコンサルティングを行なう。
グラスに対する造詣も深く、ワインやシャンパンの味を引き出す、さまざまなグラスのデザインを手がけている。日本酒やawa酒(スパークリング日本酒)のテロワール、信念に共感し、2019年からクラマスターの日本酒審査員を務める。2021年からはawa酒大使に就任し、世界へ日本酒を広める活動に尽力する。

吟天光龍 2021
GINTEN KOURYU 2021

見事なまでの透明さに、玉虫色の輝きが添えられた液体。
グラスをゆったりと伝う姿は、際立って高い粘度を感じさせる。
種々のエッセンスは、ひとつの静的な世界を形成しており、数種類の柑橘類のコンフィが、豊かな透明の水に溶けている。

米と酵母をつなぐ香りは、ミルク感の広がりをともない、巧みな緊張感をもって、
精製された塩、ヨード、湿った石のまじる土、生姜のコンフィへとその進路を拓いてゆき、
ブラックラディッシュ、西洋わさび、タイバジルは、おなじく青さの残る甘美なバラを連れてくる。

植物から樹液に至るレンジの広いアタックで、緑葉の香りは、乾燥した白い花びらにより飾られている。それはまごうことなき春の景色で、植物の開花と雨に湿った地面を想起させる。

その全体は、乾燥したルートチャービル、カルドン、ルタバガといった、根のニュアンスとの対比によって一層引き立てられており、
白いフルーツと、いくらかのトロピカルなアクセントにより、この一幕は完成する。
それらのフルーツは、あくまで素材そのままといってもよく、
茹でたてに、甘く控えめなデザート用スパイスを振りかけただけのもので、その果肉は水分で満たされた状態である。

口内では控えめな体躯で、あたかも海岸の岩を細密なペン先でデッサンするかのような繊細さにアルコールの熱感は巧妙に隠されている。
酸味の刃は鋭く、よく研がれており、テクスチャーと風味をはっきりと刻みわけてゆく。

花々、青い柑橘類、白いトロピカルフルーツ、青々しい植物が整然と並んだ様子は、
そこに満ちる風味と、夢中にさせる濃度をもたらす叡智に想いをむけさせる。

サテン地のような苦味は、生体組織が堆積して形成された石灰の塩気を伴っており、満開の花畑に潜む一本の棘のような効果をもつ。

フィニッシュは、口を広くあけた地の底において、すべてが融けあってゆく様子を思わせる。
完璧なコントロールによりうみだされ、それ本来の鮮度を保っているこの酒質の類まれな正確さは、堂々たる料理人が一匹の魚から刺身を仕立てる際に握る包丁の動きを心に思わせる。

ペアリング
ガンバスのセヴィチェ
シーアスパラガス、ルリジサ、アボカド、マンゴー、青リンゴ、ルタバガのラペ、ブッシュカンのゼストを添えて
仔牛のフィレ5種類のスパイスによるロースト
タイム、レモン、パイナップル、ニンジンのコンフィを添えて

吟天光龍 2021

吟天白龍 2021
GINTEN HAKURYU 2021

かすかに銀色がかった半透明の液体。グラスをつたう脚はさらりとしている。
液面に立ちのぼる泡は控えめながら、良い持続性である。

鼻先を近づけると同時に、我々はその酒質の核を成すもの、そして中期間の熟成に由来する、明瞭かつ心躍るような複雑性へとひき込まれる。
そこには海藻とナトリウムの霧雨、また潮香があり、どこからか芳ばしい出汁の香りの共鳴がある。
ドライフラワーと緑茶のベジタル感の良質な抽出にはひじょうな精緻さが感じられ、
りっぱな洋ナシに、黄色の柑橘類の甘みがそっと添えられている。

そして濃縮感が姿を現す。
それは官能的な乳と蒸米の香り、また穀物や根菜を連れだっており、
いくらかの白いスパイスがそこに緊張感を加え、全体としてデリケートな味覚を構成している。
これらすべては、湿りけを帯びて輝く白ぶどうの果皮に彩られ、特筆すべき香りのストラクチャーによって表現されている。

口内ではひじょうに均整の取れた味わい。
繊細な泡は、まるでシルクに包まれているかのようなタッチであり、
白い花々と洋ナシの果肉のアロマは、正確で、生き生きとした酸の媒を得て、
ヨードや青い植物のヒントとの照応を見せつつ、優雅に解き放たれる。
すこしの間をおいて、フルーツのペストリーと天然のパン酵母が完璧な調和をみせる、甘い包み菓子が現れる。
さらに風味を吟味すると、かるく湿り気を帯びた土、またそこに自生する白トリュフが卓越した個性を確立していることに気づく。

純粋に有機的なフィニッシュは、この素朴な田園詩のような物語を、土の香りをふくんだ薬草のアロマで満たし、ヨード香の高潮が、牡蠣や貝の塩気をその終わりに加える。

ペアリング
貝のシャンパーニュ蒸し
レモングラス、ガーデンハーブ、牡蠣の出汁と根菜を添えて
鯛のカルパッチョ
白トリュフオイル、青い柑橘のゼスト、生姜、コリアンダー、紫蘇、生のアオサを添えて
付け合わせにディル、白胡椒で香り付けしたホワイトビーツのタルタル

吟天白龍 2021

GINTEN blanc 2021
GINTEN blanc 2021

まばゆいベネチアンイエローに視線を奪われる。
粘度の高い液体はゆっくりとグラスを流れ落ちる。

最初に我々の視界に現れるのは、落花生、クルミなどのナッツ類、それに混じる干しぶどう、ドライフルーツが、コルヌコピアの中で一体となる様子。
この古の豊穣の角は、植物のリキュールやキャラメル、純粋な花蜜、花々からあつめられたばかりのネクターといった、佳味の後光まばゆく、うっとりするほど甘美な床の上に配されている。
これらの要素は全体として、精気を回復する樹液とも評すべくものとなり、我々に強いて熟成茶の記憶を呼び起こすようでもある。

グリルした天然酵母パン、熟したピーナッツの油分、くるみオイル、白トリュフ、秋に採れたての茸をバターで炒めたような香りは、我々を東洋、また海の気配という、ふたつの異なる場所へ導いてくれる。
そこでは数多のスパイス、黄色主体のラスエルハヌート、グリーンカレーと、
海から立ち上り、黄色く日光に照らされた霧雨とが入り交じる様子を眺めることができる。

口内では、快楽主義的なその本質が遺憾無く発揮される。
精緻さを持ったランシオ、ジュラのヴァンジョーヌ、または偉大なシェリー酒のような古酒のニュアンスが、湿度をともなった密林の中を闊歩している。こうした酸化的な特徴は、ただ辛抱と時間のみのなしえる業であり、それは同時に穀物や泥炭、焙煎香によってその輝きを加えている。

純粋に有機的なフィニッシュは、クエン酸塩やナトリウム、鉄からくるような酸味を示す。
この純真な田園恋愛詩では、いくらかの薬草ハーブと土的なニュアンスのアロマにより裏付けを獲得する一方で、飛沫を上げる海の波が、それら濃縮した滋味のひとつひとつを解放してゆく。

ペアリング
カレー、ターメリック、蜂蜜で調味したオマール海老のロティ
ミント、コリアンダー、干しぶどうをちらしたタブレを添えて
トリュフを皮下に忍ばせたブレス鶏、モリーユ茸のクリームソース煮込み
蒸米とともに

GINTEN blanc 2021

吟天白龍 2016
GINTEN HAKURYU 2016

透き通っており、黄色い藁を思わせる色相。
グラスをつたう脚には粘度が感じられ、軽やかに立ちのぼる泡には落ち着きがある。

トップノートはミルキーかつクリーミー。熟成を示唆する田園調の雰囲気である。
この肥沃な牧草地は、同時に密植した果樹園でもあり、
黄色いフルーツの果肉とその乾燥した果皮、そして種の快い苦味を認めることができる。

リ・オ・レ(牛乳で米を甘く煮たフランスの定番デザート)の豊かな風味、なみなみと湛える水分が、そのポテンシャルを明らかにするとともに、この魅力的な絵画に乳白色のニュアンスを添えている。

固有の個性を保ちつつも、みごとな熟成は要素全体に軽くローストしたようなニュアンスを与え、枯葉からなる養分豊かな腐葉土からはじまり、藁、シリアル、そして花へと順に地上へ向かって香りの層を形成している。

また、この収穫の盛りにおける田園旅行は、黄金色のスパイスやレモンコンフィといった、かぐわしい東洋の贅沢さへの埋没感をも同時に保証している。

口内では、ローストした落花生や乳脂に包まれた核心部が感じられ、
そこでは生き生きとしたアミノ酸が、ミリ単位の正確さをもって、微細な泡の形成を下支えしていることに驚きを覚える。
ここに至って我々は「模範的」とも表現できる、構成要素に対する熟成効果の美点を確認するのである。

また、そこにはやはり田園の空気感がある。穀物、燻る干し草、そして海岸の石を思わせる灰色の香りは、農家のチーズのような風味と巧みに混じり合い、
湿りけを帯びた木、そこに自生するセップ茸、椎茸の香りとともに、美食の息吹を感じさせる。

主題をなす果実味はカラフルだが、それに次ぐ、はっきりとした鉱石感がここにアクセントをもたらしている。
ブリオッシュのような酵母の香りに飾られた、この素材と時間のマリアージュは、ガストロノミックな天啓を与えるフィニッシュへと我々を導いてくれる。

ペアリング
イシビラメのバター煮
春野菜のシチュー、軽く炒めて干し草で燻した椎茸、蒸米、炒ったヘーゼルナッツを添えて
野生のキノコ、熟成パルミジャーノをつかったクリームリゾット

吟天白龍 2016

吟天水龍
GINTEN SUIRYU

透明、かつ色調は優雅なゴールドで、きらきらしている。
グラス壁面をながく、ゆっくりとつたう脚の粘性は高く、中程度の厚みを見せている。
液面に数珠のように連なる泡には優れた持続性があり、活動的に湧き立ちのぼっている。

鼻先を近づけた瞬間、我々は豪奢とも評せる熟した白い仁果類の香りのとりことなってしまう。
その香りはヘーゼルナッツやシリアル、グリルしたパンといった、中期間の熟成に由来する芳ばしさによって装飾されている。

妙霊なスモーキーさの底を探ると、ビーフジャーキーや白身魚が隠れており、さらにその輝く震央には、岩の連なりや、塩味がスケール感をもって介在している。まだあたたかい灰、円みのある潮の香りが、ゆっくりとコンフィされた、緑黄色の柑橘類の果皮と軽快に混じりあう。

それに次いで、香りの色調が、黄色い果実から、とろみを帯びたミルキーなものへと、 たとえるならフレッシュバターに海藻や植物が混じり合ったような香りへと、漸進的に変化してゆく。

それぞれ、原料である水は肉付きの良いストラクチャーと持続力を、米は魅惑的な甘みにより絶妙なバランスを酒質にもたらしており、
葉野菜と茎を含む香草ブーケが、浜辺の波しぶきのなかでほどけだす感覚が、その最後にある。

口内では、力強くエネルギッシュな鉱物感が感じられる。
それは厳格であるいっぽう、わきに添えられたほどよい糖度の果実により、同時に大きな広がりを感じさせるものでもある。
力強い泡は、しなやかな布地の触感に完全に包みこまれている。

発酵がうみだす、えも言われぬ酸の風味が、道程に差し込む一筋の光軸となり、全体にあざやかさと精度を供給する。新鮮なクルミとシダ樹液の油分が顔をのぞかせる。

最後に訪れる心地よい苦味は、味覚と嗅覚の美しい相互干渉をひき起こす。
それは灰色をした冷たい石、微量元素や粘り気のある粘土であり、
冷たくほとばしる風味と塩気の奔流のなかで、
鰹節、白身魚のミ・キュイやヨード、海藻、貝類のフィニッシュをもたらす。

ペアリング
牡蠣、牡蠣から出た海水とキュウリのジュレ
ネギ、アオサ、柚子、田舎パンと海藻バターを添えて
鱈のハーブ、海藻蒸し
燻製ベーコンとグリンピース、ワイルドガーリックとともに軽く炒めたほうれん草を添えて

吟天水龍

吟天水龍